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STYLE  過去・現在・未来の様々な視点で堺の持つ魅力を発掘/検証/企画/提案

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ママライター葵のSAKAI REPORT @SOCIAL GOOD MARKET

 

「ドドドンドドドン、ドドドドドドドン…」
「ドドドンドドドン、ドドドドドドドド…」

 

どこでお祭りをやっているかは、漏れ出る音だったり、そこに向かう人の流れや表情だったりでだいたいわかるもの。遠くからでも聞こえる和太鼓の音をめざせば、スマホに頼らなくてもそのビルの場所はおのずとわかった。

 

 

7月8日、日曜日。連日の大雨がおさまり、梅雨明けを知らせるような蒸し暑い一日だった。5歳と2歳の子どもを連れて旧泉本機鋼ビルにやってくると、御陵前駅を発車したチンチン電車がゆっくりと前を通り過ぎていった。電車の音をかき消すように、和太鼓の音が鳴り響いている。未来ある子どもたちに50年後に見せたいモノ・コト・ヒトをあつめたSOCIAL GOOD MARKETの幕開けだ。

店先の屋台には、無添加ソーセージやトマト味のかき氷、野菜たっぷりのピザやお菓子など、素材のおいしさを活かしたフードが並んでいる。おいしそうな香りに誘惑されながらビルの中へ入ると、それらに使われている堺市南区でとれた新鮮な野菜を、農家の方から直接買うことができた。安心安全な国産素材をつかったパンや、昔懐かしいラムネやひやしあめなんかも売られていた。

    

かわいいイラストの前でソーシャルグッドマーケットのメンバーさんをパシャリ!みんな素敵な笑顔!

 

2階にあがると、物販とカフェコーナーだろうか。にじゆらさんの手ぬぐいブースがあったり、藤谷商店さんがそのままお部屋のインテリアとしても使えるような素敵な知育玩具を販売していた。小さなランドセル型ポーチをつくれるワークショップコーナーなどもあった。

 

子ども2人を連れて2階であれやこれやと見ていると、どなたかわかりませんが3階へ行ってみたらと声をかけられる。降りてくる人がいなくなるのを待ってせまい階段をのぼると、そこは一面子どものあそび場になっていた。壁にはカラフルな画用紙が隙間なく張りつめられ、天井は裁断されていないにじゆらさんの手ぬぐいでリズミカルに彩られている。原っぱのようなマットの上には、クレヨン、ペン、絵の具に紙、それにビー玉やめんこなどの昔のおもちゃが置かれていた。このアイテムでどうあそぶ? 創作の場を目にした子どもたちは興奮気味に靴をぬぎすて、アートの世界に飛び込んでいった。

手にべったりと絵の具をつけて壁に向かっていく子。どこから持ってきたのか、大きな紙筒にデザインする子。たらいに入った氷の塊で冷やした手をほっぺにあてて、ケラケラ笑っている子・・・ どの子も目をキラキラ輝かせ、一生懸命あそんでいる。

 

「ここに寝転んでごらん」
そう言われた子が模造紙の上にゴロン。体の型をとってもらうと、クレヨンや絵の具で顔を描き、服を着せだした。切り取って窓のそばに貼れば、風にゆられて生きてるみたい!
ちょっと人見知りの子も、あそびに夢中になりだすと、いつの間にか親のそばを離れていた。みんな真剣にあそび、ときどきニカッと笑い、またまじめな表情に戻る。この空間全体がアートで、子どもたちはみんなかわいいアーティストだった。

子どもたちがあそぶ様子をひと目見ようと、3階のあそび場に多くの人が足を踏み入れた。鐘の音が近づいてきたと思ったら、チンドン屋さんもやってきた!そのなかに、目を細めてじぃっと子どもたちを見守る車いすの男性の姿があった。エレベーターのないこのビルで、彼はひとりで3階まで上がることはできない。しばらくすると、まわりの男性数人が、当然のように彼が階段を降りるのを手伝いだした。せまくて急な階段を、汗をかきながら、声をかけあって。いいな、と思った。ひとりでできなくても上へ行くのを諦めない人がいて、その人を当たり前のように手助けする人がいる。この姿も、50年後の未来の子どもたちに残したい一コマだと感じた。

 

再び2階へ。

「うちの子4歳やけど、できる?」
そう聞く母親に、
「大丈夫」
と応えるのは、ランドセル工房 生田の社長さんだ。

ランドセルと同じ皮をつかって、同じ製作工程を踏んでつくるミニポーチづくりのワークショップ。真剣に細かい作業をこなすわが子をみて、こんなことできるようになってたんだなーと成長を感じた親御さんも多かったのではないだろうか。丁寧に教えてもらいながら最後まで自分の手でつくりあげたポーチを、肩からさげたときの満足そうな表情。これも、未来に残したいモノのひとつだ。

 

SOCIAL GOOD MARKETを企画したのは、「百ノ姓」の肩書きをもつ増田靖さんだ。

競争だったり貧困だったり、さまざまな問題が立ちはだかるこの時代に、子どもたちが生き生きできるような、人々に元気や希望をもたらすような、そんなことをしたいと増田さんは考えていた。そして、この古いビルに出合ったときに思った。日本がもついいモノを、いいカタチで社会に循環させていく仕組みをつくり、ここから発信していけないだろうか。

たとえば。 このランチ、あそこの農家さんがめちゃくちゃこだわって育てた米や野菜でつくってるんですよ、しかもこの売上げの一部が子どもたちや社会のために還元されていく仕掛けになってるんです、だからこのランチはちょっと高いかもしれないけどこの値段なんですよ、といった感じ。誰かひとりが得するんじゃなく、みんなが笑顔になれる仕組みを、50年後の子どもたちに残せたら・・・。この日、この古いビルに集まったモノ・コト・ヒトには、そんな思いが込められていた。

 

「暑いんで、これ飲んでください」

来場者全員にペットボトルの水が配られた。まったりとしていて自然の甘さを感じる「天つ水(あまつみず)」。そのラベルにはこう書いてあった。「この水の売上げの一部は、神社の継続的な運営のほか、東吉野村の自然保護や環境整備に役立てられます」。これもまたSOCIAL GOOD MARKETにふさわしいモノだと思った。

 

私がいたのはここまで。クタクタになるまで遊んで今にも寝そうになっている娘を抱えておいとましたあとも、紙芝居が読まれたり、東日本大震災の復興を願ってつくられたバイオリンの演奏会があったりしたのだそう。

この日、このビルにぎゅっと詰まっていたのは、大人にはなつかしく、子どもには目新しいモノ・コト・ヒトだったのではないだろうか。

この風景を、50年後の子どもたちにも見せることができますように。


Author
檜垣 葵

生まれは岸和田、住まいは堺。子育てママ応援情報サイトMama Oasisの編集長の顔をもつ2児の母。できた夫のおかげで、昼夜問わずふらっと出かける自由な主婦。

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