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REPORT

間の間の話 vol.01「ゲスト:谷尻誠さん」その2

お待たせいたしました。
『間の間の話 vol.2』ということで、
谷尻さんのお話、早速はじめましょう。
お話は、昨年JCD(商環境協会)デザインアワードの大賞を受賞した
「BOOK AND BED TOKYO」のことから…。

 

─── 「BOOK AND BED TOKYO」は、半ばノリではじまったプロジェクト。

谷尻
不動産会社をされてる方と食事してる時に
東京・池袋の空きビルをどう使えばいいかって相談されたんです。
「駅前だし外国の方がたくさん来てるから
ゲストハウスやればいんじゃないですか?」って言ったら、
「じゃ、設計やってよ」って

 

─── こだわったのは、「他にはない眠り」。

谷尻
いつもホテルを設計するときは、
寝具とか、枕とか、パジャマとかマットレスみたいな
眠るときの快適性を考えてたんです。
でも、そこ競い合うといい寝具を入れるしかなくなるんですよね。
重要だけど、それはどこもやっているので、
もう少し違う眠りについて考えた方が
いいんじゃないかって話しました。

眠りを考えたとき、寝ている時間も大事なんですけど、
「『寝てない』から『寝る』になる、
その一瞬の時間をデザインする」ことも
重要なんじゃないかと思ったんです。
「本を読みながら眠ってしまう」って経験、誰しもあるじゃないですか?
そこから「本と眠り」っていうテーマにたどり着きました。
本棚があって、本がたくさんあって。
「泊まれる本屋」って言葉もキャッチーだし。
それで本棚の奥にベッドを設計しました。

 

 

─── ユーザーによる良質な広告。

谷尻
旅行先の駅ある顔ハメと同じで、
あるとうっかり顔はめてみんな写真撮りたくなっちゃう。
あんな感じというか、
本棚の中に人が入ってくシーンて、滑稽じゃないですか?
映画みたいで。
だから友達同士で来るとみんな本棚の奥のベッドから
お互いの写真を撮って、
インスタとかフェイスブックにあげてくれるんですよね。
それがホテルを社会に広める仕組みになっています。

「BOOK AND BED TOKYO」は2年前に設計しましたが、
去年は京都にオープンして、
今月は、池袋の別のフロアを増床しました。
あと大阪、博多でも探しててっていう
チェーン展開してくことになった事例ですね。

 

 

─── 広島・尾道にある古い倉庫をリノベーションし、
ホテル、飲食店、お土産物屋さんなどからなる話題のスポット
「ONOMICHI U2」。
当初はこんな課題が。

谷尻
尾道は日帰り観光の街として有名なんですけど、
僕は性格が悪いので、日帰り観光の町って聞くと
「みんなすぐ帰るんだね」って思ったんです。笑。
やっぱり泊まって色々と消費してくれないと
なかなかお金って落ちないんですよ。
実際それで経済が回っていく仕組みがあるので、
日帰りじゃない観光地にしてく必要があるなって。
それでまず宿泊を特化させようってことで
ホテルを作ることになりました。

 

─── 尾道に集まるサイクリストたちに着目、
自転車にちなんで生まれた「サイクル」というコンセプト。

谷尻
3つのサイクルでコンセプトを考えました。
一つは自転車のサイクル。
もう一つは、古い建物をもう一度再利用するというサイクル。
最後は、尾道の温暖な海と山に挟まれた場所にあるので
自然の移り変わりというサイクル。
これらをテーマにホテルの名前を
「HOTEL CYCLE」にしました。

もともと僕も自転車レースをやってて
昔、けっこう高額な自転車を持ってたんですが、
外停めてご飯行くと、盗まれないかが気になりすぎて
ご飯の味がわかんなくなるんですよ。笑
そういうことがないように「HOTEL CYCLE」は
自転車を中に持って入れるようにしました。
廊下で整備もできるし、部屋にも持って入れます。

 

 

─── 「ONOMICHI U2」で意識したのは、
地元産業との積極的なコラボレーションや
地元の人に使ってもらえるコンテンツ。

谷尻
どうやってデザインや空間をそこの出来事と
つなぎあわせていくかですね。
ホテルで使っているファブリックには、
備後絣(びんごかすり)を使っています。
あとは、ジーンズがすごく有名なので、
デニムでパジャマを作ったりしました。

パン屋さんとかカフェやレストランも地元の人が
施設を普段使いしてもらうために入れています。
観光って外のことばかり意識してしまいがちですけど、
地元の人が来てくれる施設じゃないと
成功しないんじゃないかなぁって。

 

 

─── 細やかなデザインツールがきっかけになるかもしれない。

谷尻
「ONOMICHI U2」のグラフィックは
大阪の原田祐馬くんにやってもらいました。
お金がなくて非常にローコストなプロジェクトだったので、
例えばメモパッドは、
実は無印のものにスタンプ押しただけのものです。
でも女性とかがよく
「わぁ、持って帰りたい」
って言ってくれるんで、
デザインの力ってやっぱりそういうところにあるんですよね。
もしかしたらそういうステーショナリーから
ホテルに興味を持ってくれたり、
尾道に愛着を持ってくれるたりするかもしれません。
洋服、食、デザイン、アート、いろいろなものをきっかけに
人がこの場所に入ってきてくれるような
仕組みを作るっていうことですね。

 

 

─── 環境をデザインする。

谷尻
「ONOMICHI U2」は、大きい倉庫の中に
ホテルやレストランなどの小さな建物を建てるように
設計しています。
これは尾道の町自体が、小さな建物がひしめき合って
路地が形成されているので、
その風景を継承するということをやっています。

この倉庫は、2000平米くらいあるんですけど、
その空調をエアコンでってなると
環境的にも経済的にもよろしくない。
なので、そこもデザインしました。
まず、どうやったら温度の分布が安定するかを調べました。

1年間、倉庫の中の温度分布を全部計測して、
それをもとに
気化熱の利用と湿度のコントロールする設備を使って
快適な環境になるようにしました。
夏の厳しい時期と冬の厳しい時期以外は、
春とか秋並みの温度に保たれてます。
エアコンじゃないので、
なんとなく空気はきれいだけど快適な感じ。
誰も言わないと気づかないことなんですけど、
そういう環境デザインをここでは実現しています。

 

 

─── 「ONOMICHI U2」をきっかけに尾道起こった変化。

谷尻
おかげさまで、尾道に来る人口も増えて
宿泊率も上がっています。
尾道自体の町づくり意識も高まってて、
コンペも増えました。
スタジオ・ムンバイとかアトリエ・ワンとか、
石上純也、伊東豊雄さんなんかが
すごいたくさんプロジェクトやってます。
いろんな有名な建築家が集まって
町が賑やかになってるような状況ですね。

最初何もないところから始めるのは大変だけど、
だからこそ凄く掘り甲斐がある
いいプロジェクトだと思っています。

 

(次回につづく)


Author
古島 佑起

ことばとデザイン主宰。グラフィックデザイン、コピーライティングを軸に、行政、教育、芸術・文化、医療、飲食、農業など幅広い分野で、広告制作やイベント企画、商品開発などを行なう。近年は大阪・八尾のものづくりの魅力を発信するプロジェクトYAOLAで精力的に地域と関わる。

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