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STYLE  過去・現在・未来の様々な視点で堺の持つ魅力を発掘/検証/企画/提案

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REPORT

間の間の話 vol.02「ゲスト:江弘毅さん」後編

ゲストに編集者の江弘毅さんを迎えた『間の間』。
後編はさらに盛り上がり、会場に足を運んでくれた様々な方々との
クロストークに発展。熱のこもったトークをお楽しみください。

 

 

───伝統工芸と革新

会場には、ゲストの江さん、サカイノマスタッフ以外にも
堺の刃物職人さんや同じく堺の伝統産業である
注染手ぬぐいのメーカーさんなどが集まり、
伝統を受け継ぐものづくりの在り方について
さまざまな意見が交わされました。
話は「伝統産業の革新」というテーマから。

藤木(サカイノマ ディレクター)
「伝統っていうのは、どこかで新しいことを取り入れることも
必要なのかなと思ったのですが、
そういう革新みたいなことって何か考えたりしていますか?」

榎並
「僕はないです。伝統に革新は要らないんで。」

そう話すのは榎並刃物製作所の榎並(えなみ)さん。
堺打刃物の鍛治職人だ。

 

榎並
「堺の鍛冶屋さん、問屋さんとかがカラー包丁作ったり、
いろんなことやってるんですけど、単発で終わるんです。
庖丁は600年も前の技術でずっときているので、
そんな単発のものいらないんです。」


紙一枚入る隙のない、触られへんような完成系が文化
やっていうのは、有次さんも言うてはりますね。」

道具に装飾は無用。
庖丁は道具。切れてなんぼだと榎並さんは話す。
一方で、人々のライフスタイルが変化し、
食文化も変化する現代で、
庖丁作りに起こっている変化はあるのだろうか。

榎並
「庖丁を作る技術や工程の部分は変わらないです。
ただ、職人としての気持ちや考え方というのは変わっているかもしれません。」

昔の職人は人に仕事を見せないものだったが、
今は榎並さんはじめ堺の庖丁職人さんによる、
庖丁作り体験や仕事場の見学などの情報発信や
職人同士の勉強会の機会も増えている。
こういった職人の意識の変化は革新と言えるのかもしれない。

 

───日本人に売れない和庖丁

今庖丁の専門店に行くと、お客さんの半数が海外の方だという。
その反面、日本人には和庖丁が売れなくなってきているそうだ。

榎並
「海外の方は、文化的に包丁が錆びたらもう使いません。
錆びるまで使うものとして考えてるから、切れ味のいい和庖丁が売れます。
日本の方は、和庖丁に手入れが必要なことを知っているので、
それが面倒というのもあって、ちょっと売れにくくなっているのだと思います。」


「僕も『有次と庖丁』を書くために
有次さんの庖丁を3本くらい使いました。
和庖丁って、すごいんですよ。
切るのがだんだんおもろなってくる。
刺身庖丁。マグロはおもんないです、イカ!あとナマコですね。
切るのが楽しいから、魚屋とか行くようになるんです。
食生活に影響与えるくらいのもんです。
でも、結局本を書き終えてから3本ともプロにあげました。
やっぱりね、手に負えないんです。」

 

───職人は減っている、しかし需要がある研ぎ師の仕事


「一方で、和食業界で『堺刃物』って言うたら
シェア90%っていう話もあります。
需要はあると思うんですが。」

榎並
「僕らが作ってる『堺打刃物』は伝統工芸品と言われていますが、
実は『堺打刃物』は、ほとんど『堺刃物』としては世に出てないです。
地方の有名な庖丁専門店に流れています。
京都有次しかり、僕が納めてる築地有次しかり。」

榎並さんの話では、『堺刃物』として市場に出ているものの多くは、
堺の問屋さんが他の生産地から仕入れた
ステンレス製の包丁や大量生産品を
堺の刃付け屋が研いで仕上げたものだという。

榎並
「『堺刃物』が有名なんで、みんな仕上げを堺でやって、
それで『堺刃物』って言うて出してる。
和食業界でシェアが90%って言うても、
全ての工程を堺で仕上げている庖丁のシェアは10%ないですよ。
それだけ作れる職人がいないんです。」

豊田
「だから逆に今堺の刃付けの仕事は、むちゃくちゃ需要あるんすよ。」
豊田さんは、庖丁作りの「研ぎ」をする刃付け職人だ。
分業制の庖丁作りにおいて、榎並さんたち鍛冶職人が作った打庖丁を
仕上げる工程を担当している。

豊田
「国内でいえば料理学校の庖丁を一手にやったり、
海外からの需要も多いです。
でも、榎並さん言うみたいに職人のなり手が少なくて育たない。
需要がむちゃむちゃあるはずなんすけど、職人が減ってるっていう
矛盾があるんすよ。」

榎並
「例えば4月前になると堺の刃付け屋さんは、
料理学校の庖丁に掛り切りになってしまってね。
僕らみたいな堺の生地の庖丁が上がってこないんですよ。
するとメイド・イン・堺の庖丁の生産量は落ちるし、
職人も減っていく。」

榎並さんによると、堺の問屋が他産地の生地の仕入れを止め、
メイド・イン・堺に集中すれば、
堺刃物の生産量は上がり、職人も増え、
研ぎ師にも質の高い仕事を発注することができるようになるという。
しかし、和庖丁の需要が減っている今、
それを実現するのは厳しい現状にある。

豊田
「問屋さんからしたら、堺の生地だけを扱うんじゃなくて、
他産地の生地も扱うのが革新やっていう見方あるみたいだし、
難しいですよね。」

 

───時代のニーズに合わせた新たなアプローチ

藤木
「堺で洋庖丁を作られている芦刃物製作所の高田さんは、
たぶんアプローチが違うと思うのですが。」

高田
「アプローチが全然違うんで、あんまりしゃべると喧嘩にならないですかね?」

榎並
「ならないですよ。ならないです。」

高田
「先ほど榎並さんがおっしゃってたように、『堺打刃物』は伝統工芸品です。
僕が作っている刃物は、打ったものを研いでるわけではないので、
『打刃物』じゃないんです。『堺刃物』には入ってるんですけどね。
堺で作ってるけど『打刃物』ではないので、伝統産業ではないんですけれども」

高田さんが作るのは、
堺で培われた良い刃物の製法・研ぎ方を受け継ぎながら
時代のニーズに合わせた洋庖丁だ。

「ちょっと言葉にしづらいですが、
今のニーズがどうしてもメンテナンスしやすいステンレスに移っていて。
一般家庭の方はもちろん料理人でさえも、
若い板前さんなんかは、刺身包丁や出刃包丁を
使いこなせない方も増えています。
そういった中で、ウチみたいなやり方も、
一つの方法として僕は間違ってないと思っています。」

ニーズに寄り添うことが職人であることと相違するわけではない。
高田さんは続ける。

高田
「誤解されたくないのは、
ものすごく安いものを作ってるわけではないんです。
確かに本数的にはすごくたくさん作れる製法を取っています。
しかし、工場の人間はみんな、
洋庖丁では日本一のものを作ってるっていう自負があります。
堺刃物の名に恥じないものを作っていこう。
堺の伝統の技術を継承していこうっていう想いで
新しいことにも挑戦するっていうのが、うちの革新なのかなって。」

高田さんの芦刃物製作所では、
新しい生活様式に合うデザインや商品づくりという取り組みもあり、
8人の従業員のうち半数が30歳以下の若い世代だという。
同じく堺の伝統工芸品である手ぬぐいを作っている株式会社ナカニも、
若い人の感性を生かし、やりがいある職場づくりに挑戦している企業だ。

 

───生き残るために価値を高める『にじゆら』という挑戦

「ナカニ」という名前は知らなくとも「にじゆら」と言えば
その名を知っている方も多いだろう。
現代的で様々なデザインのおしゃれな手ぬぐいブランド
『にゆじら』を展開する『ナカニ』の考える「伝統と革新とは」を
中尾弘基さんお聴きした。

中尾
「皆さん注染てご存知ですか?
手ぬぐい染めたりする時に使われる型染めの手法なんですけど、
手ぬぐいの形っては200年前から変わってないんです。
こんなん言うたらあれなんですけど、ただ切っただけの布なんです。
一切縫製もしない。
染めた平織りの綿を90cmにカットして、ハイ、どうぞなんですよ。
そんなシンプルなものが200年以上そのまま残ってるって
すごいなって思うんです。」

「必要だから作った」が工芸の起点だと語る中尾さん。
以前は、手ぬぐいも万能な道具だった。
しかし、タオルをはじめ用途に応じた商品が出来上がった現代で、
どのように手ぬぐいを使ってもらうかが課題だった。

中尾
「手ぬぐいにおいては、機能的な部分の革新は、
もう無理なんじゃないかなって思ってます。
じゃあデザインで勝負しようって出来たのが
『にじゆら』です。」

「機能性を突き詰めるのではなく、デザインに特化する」
という決断は、企業としても大きなものだったに違いない。

中尾
「賛否両論あって、
未だに同業者さんから叩かれたりもするんですけどね。笑。
でも、結局残らないと意味がない。
生き残っていくためには、
時にそれまでやってきたことを捨ててでも
新しいことをしないこともあるのかなと思っています。」

はじめた当初、全くの無名ブランドだった『にじゆら』は
徐々に認知を広げ、現在は30代の中尾さんと同年代の従業員が、
工場の半分を占めるまでになったそうだ。

中尾
「堺の人は、手ぬぐい貰うもんやと思ってるんです。
でも、うちこれ一枚1500円くらいで売ってるんです。
だいたい34割利益出ます。
みんなから「ぼったくりや」言われましたよ。
でも、それくらいしないと合わないんですね。
だって職人さんて、1年目2年目なんて全部失敗するんですよ。
でも給料は払わんとダメです。
その中で若い人育てろ言われてもなかなかね。
だから、商品のデザインだけは他にないものにして、
それなりに注染の価値を上げていかないと
あとの人育てるのもできないって思っています。」

自社の商品づくりを通して後進の育成や
注染という伝統工芸の価値を高めていくという
ナカニの挑戦は、伝統産業がこの先も生き残り続けるための
一つのモデルケースになるかもしれない。

最後にサカイノマのディレクター藤木から江さんにこんな質問が。

 

───街の面白さってなんでしょう?

藤木
「街の面白さってなんでしょう?
江さんっていろんな街を色々取材されてると思うんですね。
その中で何が面白い、面白くないのか。
江さんの引っかかるポイントが何なのかっていう。」


「関西の場合は、都市計画とかターミナルの再開発とかで
成功した事例ってないんですね。
誰かが計画的にやった街づくりっていうのは
ことごとくおもんなくて裏目にでる。
アメ村とか今人気ある天満とかはそういう出来かたじゃないです。」

街の面白みは「デコボコ」にあると言う江さん。
民家の隣が喫茶店。その隣は洗濯屋さんというような
ある種、隙間が居心地の良さなのだと言う。

「おもろい街っていうのは、イタリアの街づくりを持ってくるみたいな
成功例の平行移動では出来ないんですよ。
ワインなんかもそうなんですけど、どんなええ苗でも、
よその土地に持ってきたってあかんのです。
ロマネコンティの畑がすごいのは、移動不可やからです。
そういうことをその街の人間がわかってるかどうかです。
それは旅行してたら伝わりますやんね。
中国行ってマクドナルド入りたないでしょ?
やっぱり上海の小籠包なら、上海のうまい店に行きたいじゃないですか。
おもろいっていうのはそういうことやと思います。」

間宮
「堺は昔、自治区っていう形で自分たちだけの社会を作ってた。
それは、やっぱおもろいなって思うんですよ。
自分らだけで国を作ってるわけじゃないですか。
そのバイタリティーはすごいなあって思いますよね。
それはたぶんどっかで今も残ってるんやけども。」

藤木
「なんか堺って、昔あった自治性というかバイタリティと、
今の現状とがうまく繋がってない感じはありますよね。
街の魅力とかみんなに伝わるような試みとか、
もっと具体的なアクションをやった上で、
自分たちの自治区だと言うならなら閉じててもいいのかもわからない。
でも、今はできてないけど、過去できてたっていう
プライドだけ残ってる感じに僕はすごい違和感があります。
元来ある自治性を街が魅力的になるように発揮できたら面白くなりますよね。
この場がそういうことを考えるきっかけになっていったらなって思います。」

これで「間の間の話 vol.2」はおしまいです。

ありがとうございました。


Author
古島 佑起

ことばとデザイン主宰。グラフィックデザイン、コピーライティングを軸に、行政、教育、芸術・文化、医療、飲食、農業など幅広い分野で、広告制作やイベント企画、商品開発などを行なう。近年は大阪・八尾のものづくりの魅力を発信するプロジェクトYAOLAで精力的に地域と関わる。

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